
10. ピンセットのあれこれ
宝石は大抵が小さなものですので、指でルースを掴み、目で内部を観察する、ということはなかなか出来ません。そこで、指で掴めないものをピンセットを利用して保持し、肉眼では見えないものをルーペの力を借りて観察します。
ルーペについては、以前のコラムにてご紹介いたしましたので、今回はピンセットについてのお話です。ピンセットを使う上でのポイントは、「掴み方」と「力加減」です。
ピンセットは、物を挟むというとても明確な用途のために作られた道具ですので、使い方も至ってシンプルです。
ですから、ピンセットの使い方?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はなかなか奥深いのです。
1. ルースの掴み方
A・B・Cの3枚の写真の中で、どれがピンセットでルースを掴む際の適切な向きでしょうか?

正解は…
「C」です。
ピンセットでルースを掴む際には、まず平らな面に、ルースのテーブル面を下、キューレット(先端部)が裏側になるように置きます。その状態で、ピンセットを寝かせ、横からガードル(外周部)を両側から挟みこみます。
AやBのようになっている石は、一度テーブル面を下にしてから横から挟みます。カボッションの石も、同様に一度底面を上にしてから挟みます。
A・Bのような状態だと、うまくピンセットがかからなかった場合に、石を飛ばしてしまう可能性があります。

よほど脆かったり、硬度が低い石でない限り、このような持ち方をしても欠けたり傷付いたりすることはほとんどありませんが、石を見せてもらう際にはこのような持ち方はしない方が良いでしょう。
2. 挟む際の力加減
ピンセットで石を挟む際には、強く力を入れて挟んではいけません。強く挟み込むと、少しでも挟んでいる面がずれると、石がどこかに飛んでいってしまいます(宝石を扱う者は誰しもが通る道ですが、小さな石は本当にとてもよく飛びます…)。
石を保持出来るだけの、できるだけ弱い力でやさしく挟み込みます。

挟みにくい形状の石は、ロック機構がついたピンセット(ワンタッチで適切な力で保持出来ます)を使ったり、ピンセットの後ろに輪ゴムを巻いたりして開き具合を調整します。
私共は、屋外や採掘現場で原石を見る機会も多いので、確実に石を保持するために、先端に溝が付いているものを使用しています。
3. ピンセットを使わない場合
基本的な事ですが、大きな石にはピンセットを使わず、指で持ちます。

宝石の中には、硬度が大きくとも衝撃に弱い石(トパーズなど)がありますが、そのような部類の大きな石をコンクリートの床などに落とすと、欠けたり割れたりすることがあります。
ピンセットを使い慣れてくると忘れがちですが、ピンセットは、小さなものをしっかりと保持するための道具ですので、ピンセットで挟めないようなサイズの石には使わないようにしましょう。
宝石を取り扱う者にとっては、ピンセットはまさに自分の「手」であり「指」ですので、ルーペ同様、使いこなしを見ただけで、なんとなくスキルが分かってしまいます。
ぜひ自分にあったピンセットを見つけ、腕(指?)を磨いて下さい。
もし海外でルースを選ぶ機会がありましたら、ピンセットの使いこなしだけで値段が変わってくることもあるかもしれません。