9. ルーペのあれこれ(後編:レンズの種類)

前編では、ルーペのサイズや倍率についてのお話を申し上げましたが、後編では、レンズの種類についてのお話です。

対象物を拡大して見るためのレンズは凸(とつ)レンズですが、この凸レンズにもいくつかの種類があります。宝石用のルーペを選ぶ際には、普通のルーペではさほど問題にならない点にも注意しなければなりません。


3. レンズの違いについて

一般にルーペに使われるレンズには、一枚成型の凸レンズの他にも、色々な加工を施したものがあります。

凸レンズと凹レンズを張り合わせたものはDoublet(ダブレット)、凸レンズと凹レンズを計3枚張り合わせたものはTriplet(トリプレット)と呼ばれます。これらは、後ほど述べる「収差(ボケやゆがみ)」を補正するための工夫です。

Coddington(コディントン)は、1枚のレンズに溝を彫りレンズを通る光を絞ることによって球面収差を出来るだけ抑えるように出来ています。

ルーペ選びのポイント③
宝石用のルーペの場合、トリプレットレンズが使われているものが適しています。
ダブレットは今ではほとんど見かけませんし、コディントンについては、色収差が修正されていません。
屋外のフィールドワークなど、水がかかったりする環境で利用する場合には、1枚のレンズで出来ているコディントンのレンズも選択肢に入りますが、室内で宝石を見る用途だと、トリプレットをお勧めいたします。


代表的な収差の例
球面収差
一般的に、費用の面や加工の容易さから、レンズの表面は球面の一部を切り取った形になっていることが多いのですが、このようなレンズの場合、レンズの端寄りを通る光は、レンズの中心寄りを通る光と比べて大きく屈折しすぎるために焦点がずれ、その結果として像がぼけてしまいます。これを球面収差といいます。
ルーペではさほど使われていませんが、これを補正するために生まれたのが非球面レンズです。


色収差
光は、ガラスやレンズなどの透明な物体を通るときに屈折しますが、波長(色)によってその度合いが異なります。
光の成分(紫・藍・青・緑・黄・橙・赤)の中で、青い光は赤い光に比べて屈折の度合いが大きいため、赤い光より手前に焦点が来てしまい、色ずれが起きてしまいます。
ダブレットやトリプレットは、凸レンズと凹レンズを組み合わせてこれを修正しています。凸レンズでは赤い光の屈折が小さく、青い光の屈折が大きいのですが、凹レンズではそれが逆になるので、これらを組み合わせると、そのずれを抑えることが出来ます。

総括として、ルーペの形状や倍率については、好みや用途によりお選び頂くのが良いと思いますが、初めての方には基本となる10倍のルーペをお勧めいたいます。
レンズに関しては、きちんと収差が修正されているトリプレットレンズが使われているものが良いでしょう。


余談ですが、スリランカで一度、非常に安く売られている「Triplet」と印刷されたルーペを見たことがあります。しかし、このルーペで使われていたのは、ただの1枚の凸レンズでした。もしかしたら「Triplet」という商品名のルーペだったのかもしれませんが(さすがにちょっと苦しいですね・・・)、実際にお求めになる場合にはご注意下さい。

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