11. ブルームーンストーンのダブレット

以前お伝えした通り、現在はスリランカ産のブルームーンストーンを見つけるのは、現地でも非常に困難です。

スリランカ国内でもほとんど流通在庫が無い上、他国(おもにタンザニア)産のペリステライトがブルームーンストーンとして販売されたり、ブルームーンストーンのロットとミックスされて売られたりしているので、よほど見慣れていないと、自信を持って買うことは難しいでしょう。

今回ご紹介するのは、そんな状況の中で見つけた、ブルームーンストーンのダブレットです。

ダブレットとは、2つの石の張り合わせがなされたものです。
宝石用のルーペのお話のところで登場した、レンズのダブレットも同様のものです。
ルーペの場合は、レンズを複数貼り合わせることによって、色やピントのずれによるボケを正しく見えるように修正するのが目的ですが、宝石の場合は、あまり良い目的に使われないこともあります。
もちろん、きちんと「ダブレット(貼り合わせ)」との断りがあり、周知された上で加工、販売されている分には、美しい石を安価に楽しむことが出来ますので良いと思うのですが…。


「え?貼り合わせ?二枚の石を接着しているんでしょ?透明な石ならすぐ分かるんじゃ…?」とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、いかがでしょう?

こちらがダブレットのルースです。

弊社のスタッフ達は、何万個というブルームーンストーンのルースを見てきていますので、すぐに違和感を感じ取ることが出来ましたが、カボッションの盛りがもう少し薄く、ペンダントヘッドに伏せ込みなどのセッティングがなされていたら、気付きにくかったかもしれません。
底面だけが薄いブルームーンストーンで、カボッション部分がおそらくクォーツだと思われます。


貼り合わせには、ガラスなどに用いられる透明な接着剤が使われており、また接着後にその周辺部を研磨してしまいますので、遠目からぱっと見ただけではなかなか分かりにくいのですが、ルース(裸石)の場合は、側面からルーペなどで見てみると良いでしょう。

このように、貼り合わせの面が一直線のラインとして見えますので、判別が可能です。

ダブレット ダブレット(底面よリ)

問題は、既にアクセサリなどに加工され、側面部が見えない場合です。
ダブレットのブルームーンストーンは、通常のものとシラーの出方が異なりますので、こちらが判別のポイントとなります。
写真では少し分かりにくいかと思いますので、簡単な比較動画を作成いたしました。


こちらは、スリランカ産のブルームーンストーンです。
カボッション部分に、スリランカ産のムーンストーンに特徴的な、大きなムカデ状のインクルージョンが観察できます。
シラーも石の動きに合わせ、自然に移動している様子がお分かり頂けるかと思います。
インクルージョンがある石は、インクルージョンが突然平面状に切れていたりしないか、ということも参考になります。



一方こちらは、ダブレット石です。
石を動かした時の、シラーの出方に少し違和感があります。
ダブレット石の場合、底に貼り合わせたブルームーンストーンに出たシラーがカボッション部を通して見えますので、底の方からブルーが浮き上がってくるような感じに見えます。
また、カボッション部はムーンストーンではありませんので、当然ながら真横から見た際には、カボッション部にシラーは出ません。


加工されて、既に石留めされているブルームーンストーンを購入する場合、シラーの出方に着目してみると良いでしょう。

そして、比較的どんな石にも当てはまる事なのですが、ダブレット石を見分ける際のもう一つのヒントとなり得るものが、「価格」です。
ブルームーンストーンの場合、原石は薄い層状のものが多いため、厚みのある大きなカボッションを作るのは非常に難しいです(時々、ブルームーンストーンの丸玉についてお問い合わせを頂くことがあるのですが、このような理由により、ほとんど存在しません)。
一見するとブルームーンストーンで、インクルージョンが無く、盛りのあるカボッション石が不思議なほど激安、という場合には少しご注意ください。


ダブレットは、特にオパールやエメラルドに多いですが、大抵の宝石にはこういった貼り合わせ・模造品などが存在します。

海外で宝石を購入する際には、そういえばこういう話もあったなぁ、と少し思いだして頂ければ幸いです。
日本に帰って来て、鑑別書を取って確認してからではもう遅いですから…。

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