5. 宝石屋の7つ道具(後編)

宝石を扱う私たちにとって、裸石(ルース)を取り扱ったり、その種類を見分けたりする道具・機器は非常に重要です。今回は、私たちが使っている道具や機器を少しご紹介いたします。

4. 偏光器

偏光器は、その宝石が単屈折であるか複屈折であるか、また複屈折の場合、それが一軸性であるか、二軸性であるかなどの判別のために使われる機器です。屈折計でも、複屈折かどうかは判別が可能ですが、こちらはより簡単に、素早く判別が可能です。大量のルースを判別するときなどの補助検査に、非常に役立ちます。

偏光器は、上と下にそれぞれ偏光板が付いており、その間に宝石を入れ、下の偏光板の下部から光を当てて、宝石の様子を観察します。
今回はこちらでご紹介はいたしませんが、偏光器は非常にシンプルな作りですので、偏光板さえあれば簡単に自作することも可能です。

偏光器でサファイア(複屈折)を観察した時の様子

左の写真は、偏光器の、上下の偏光板の間にサファイア(複屈折)のルースを保持し、上から覗いたところです。
偏光板を二枚重ね合わせて回すと、その角度により、明るくなったり、暗くなったりしますが、偏光器は、上から2枚の偏光板を覗いたときに、最も暗くなるような位置にしてから使用します。

複屈折の宝石の場合、保持した石を45度回転させる毎に、宝石の内部が明るくなったり暗くなったりします。単屈折の宝石(スピネルなど)の場合は、内部の色は変化しません。
←左の画像にマウスを載せると、写真が切り替わります。

5. 分光器

弊社で使用している分光器(設置型)

人間の目には同じような色合いに見えても、宝石はその種類によって、発色の要因となる物質は異なります。分光器は、宝石に光を当てたときに透過したり、反射してくる光をそれぞれの波長毎に分け、どのような光が吸収されているかを調べることにより、その発色の要因となる物質を調べることが出来る道具です。吸収ラインのパターンを記憶しておけば、それにより宝石の種類を判別することも可能です。

一例を挙げると、ピンクバイオレット系統色のガーネットと、同じくピンクバイオレット系統色のスピネルの区分などに役立ちます。これらは、非常に似通った色合いのものがありますので、肉眼で見ただけではまず判別することは出来ません。

右は、同じピンクバイオレット系統色のガーネットとスピネルを、分光器で覗いたときの実際のスペクトルの写真です。本来は、目を当てて覗くものですので、写真があまりうまく撮れておりませんが、ガーネット(上)は赤~橙、黄色の部分と、緑~青にかけての部分に、光が吸収された黒いラインが観察できます。一方、スピネル(下)には、特に目立った吸収ラインが観察されていません。一見同じように見える色合いのものでも、分光器を使うとそれらを判別することが出来ます。
ハンディタイプのものは、携帯にも便利で、非常に役立ちます。

※ラインの位置は、同じ宝石でも色によって異なり、また正確にはさまざまな細かいラインやバンドが観察されるのですが、ここでは分かりやすいよう、大まかな説明をしています。

6. 顕微鏡

暗視野装置のついた宝石顕微鏡なども数台ありますが、弊社では主に、使いやすいように独自にカスタマイズをした顕微鏡を使っています。

顕微鏡は、インクルージョンや、内部構造などを観察するときには非常に重要です。インクルージョンの観察により、その宝石の種類を判別したり、産地を特定したりすることも可能です。

コラム「宝石中のインクルージョンによる産地の推定」や、インクルージョンギャラリーなどにて顕微鏡写真を掲載しています。興味がある方は、こちらもぜひご覧下さい。

7. その他

7つ道具、と初めに書いておきながら、8つご紹介することになってしまいましたが、補助的に使用する機器を2つ挙げておきます。

弊社で使用している、チェルシーカラーフィルター

一つ目が、左のチェルシーカラーフィルター(エメラルドフィルター)です。
このチェルシーカラーフィルターは、スペクトルの赤色の部分と、黄緑色の部分以外を吸収するように作られています。
この特性を活かし、エメラルドと模造エメラルド(緑色ガラス)の判別や、翡翠の染色の有無、アレキサンドライトの判別などに用いられます。
エメラルドの判別を例に挙げると、チェルシーカラーフィルターを通して見た際には、一般的にエメラルドは赤色(または微赤色)に見えるのに対し、模造エメラルド(緑色ガラスなど)は緑色に見えます。

弊社では主に、アレキサンドライトの判別に利用しています。
あくまで補助的な利用ですが、小さく、持ち運びが便利な道具です。

二つ目が、右の紫外線蛍光器です。
こちらの機器には、長波と短波の紫外線を発するランプが付いています。下の部分の小さな扉を開けて、中に宝石を入れ、紫外線ランプ(手前部分と奥の部分の、箱状の場所に内蔵されています)を点灯し、覗き窓の部分から観察を行います。

宝石によっては、紫外線で蛍光するものがありますので、種類の判別や、また産地の推定にも使われることがあります。
こちらも、あくまで補助的な利用ですが、ある程度の数をまとめて調べることが出来ますので、ルースのロットなどのチェックに用いたりします。

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